概要
期間 2010年11月20日〜12月19日
場所 松戸市根本3−9 アクシス根本1F
2010年の11月から12月にかけて、松戸駅西口界隈で、アートによる地域活性を目指す松戸アートラインプロジェクト2010が開催された。31組の現代美術作家が、松戸の地域性を作品に取り入れながら、あるいは、松戸の方々と関わりながら作品を制作し、展示するというプロジェクトである。
ワークショップユニット代本板(中島佑太×石幡愛)は、松戸市根本の空きガレージを使って、まちの方々から、本とその本にまつわるエピソードを集めて<図書館>を制作した。出来上がった作品を展示するのではなく、会期を通して徐々に作られ、日々変化していく場であり、本を集めることをきっかけに、松戸の方々とおしゃべりをする場でもある、まちの交流拠点としての<図書館>だ。
<図書館>に対する地元の方々の関わり方とその経過
<図書館>の特徴は、アートの鑑賞を目的に来場する方や、遠方から1回限り見に来られる方ばかりでなく、近所にお住まいの方や、中部小学校、北部小学校の子どもたちや、近くの学童保育に通う他の小学校の子どもたちや先生方が、繰り返し訪れてくださる場になったという点にある。
11月上旬の制作期間には、空きガレージのシャッターが突然開いたことに関心を示し、「お店になるんですか?」など質問してくださる方がいらっしゃった。「何がはじまるのだろう?」という表情で立ち止まって見ていく学校帰りの子どもたちもいた。そうした人々とのやりとりを通して、空きガレージが<図書館>になるという物語が、少しずつ地元の人たちの間に広がっていった。
会期がはじまると、まず、近所の子どもたちの図書館になった。本を読んだり借りたりしていく子もいれば、「子ども司書さん」として、本の分類、本棚の整頓やラベル作りをしてくれたり、<図書館>で起きる出来事を記録していく日報の記事を書いてくれたりする子もいた。子どもたちと一緒に学童の先生が来てくださったり、子どもに連れられて親御さんが来てくださったこともあった。
近隣の大人の方々の中にも、いわゆる図書館(本を読み、借りる場)として利用してくださる方が少しずつ出てきた。「まちの方の本と、本にまつわるエピソードを集めています」とお話しすると、もう一度、本を持って訪れてくださり、ブックカードをはさむワークショップに参加してくださる方や、「お昼ごはんに食べて」と差し入れをしてくださる方まで出てきた。
根本の町会長さん、隣の町会の子ども会、近隣の小中学校のご協力で、チラシを配布していただけたこともあり、<図書館>は、地元の方々が繰り返し訪れる場として徐々に機能しはじめた。そして、日が経つにつれ、<図書館>は、まちの日常に根づきはじめたように見えた。
特にそれを感じさせてくれたのは、子どもたちの<図書館>に対する関わり方の変化だった。彼らは、毎日、習い事の行き帰りに<図書館>に立ち寄っていく。そのうち、本を読むだけでなく、友達と待ち合わせたり、私たちとおしゃべりをしたりお話を作ったり、おやつを食べたり、友達と一緒に遊んで過ごしたりしはじめたのだ。「いってきます」と言って子どもたちは習い事に出かけていき、その場にいる常連の大人たちは「いってらっしゃい」「また来てね」と送り出す。こうして<図書館>は、地元の子どもたちが気軽に立ち寄り、その場に居合わせた人たちと時間をともにする場所になった。
まちに対するアーティストの関わり方とその経過
私たちにとって、松戸という地域は特にゆかりや理由があって選んだ土地ではない。<図書館>作るというワークショップを通して、まちの人たちとコミュニケーションを深めるというプロジェクトをやろうというアイディアだけを持って、場所を探していたところ、松戸アートラインプロジェクトを知り、応募したという流れだ。プロジェクトがはじまるまでは、これから毎日松戸駅で電車を降りることになろうとは思ってもいなかったのだ。
たくさんある空き物件の中で、根本にある空きガレージ(アクシス根本)をスタジオとして選んだのは、「道路に面した1階のスペースで入り口を全開にできるところ」という条件に当てはまったからだった。それから、目に見えない木の根っこを想像するように、本の根っこ(本にまつわる物語)を想像する場所にしたいと考えていた私たちにとって、「根本」という地名には何か気になるものがあった。こうして、松戸市根本は、どこでもよい場所から<図書館>を置く必然性のある場所になった。
制作をはじめたばかりの頃は、近所に知り合いもいない「よそ者」だった。とりあえず、ガレージのシャッターを開けて、集まった本を積んでみたり並べてみたり、何はじまりそうな雰囲気を出すことで、とにかく目を向けてもらう。それが最初の自己呈示であり、まちとの関わり方だった。毎日ガレージを開けていると、やがて知り合いができはじめる。まず、スタジオの前を通学路にしている中学生たちと「こんにちは」と挨拶するようになった。それから、スタジオの上の階に住んでいらっしゃる方、隣の理容室の方、向かいのマンションに住んでいる小学生たち。名前を知らない「まちの人」が「誰々さん」になっていった。
松戸でアートプロジェクトが行われるということについて、近隣の方がどう感じているのかを聞くことができたのも、近隣の方々のことをより深く知るきっかけとなった。スタジオの正面にある壁画(グラフィティアート)が描かれることになった経緯や、松戸市と町会の交渉に関するエピソードや、その壁画を根本町会の方がとても誇りに思っていることなどについてお話を聞くことで、私たちは、町会の歴史を本当にわずかなりとも共有することができた。
会期が終わり、<図書館>は、松戸の方々からいただいた本と本にまつわるエピソードを携えて、次の土地へ移動する。この1ヶ月間で私たちが十分に関わることができた方々は、町会あるいは松戸市の住民の数に比べればほんのわずかだ。とはいえ、<図書館>に足を踏み入れこそしないものの、立ち止まって眺めて行く方や、「図書館だって」と話しながら通り過ぎて行く方はたくさんいらっしゃった。そうした方々とコミュニケーションを深めていくためには、もう少し長い時間がかかるのだろう。それでも、繰り返し訪れてくださったり、私たちの活動を気にかけてくださり応援してくださる方々との日々の会話の積み重ねが、どこでもよい場所だった松戸を、そして、誰でもよい人だった地元の人々を、また来たい「この場所」、そして、また会って一緒に何かしたい「この人」へと変えてくれた。そのことが、私にとってのいちばん嬉しい成果だ。
写真協力:天谷窓大(ブクブク交換)
文章:石幡愛
期間 2010年11月20日〜12月19日
場所 松戸市根本3−9 アクシス根本1F
2010年の11月から12月にかけて、松戸駅西口界隈で、アートによる地域活性を目指す松戸アートラインプロジェクト2010が開催された。31組の現代美術作家が、松戸の地域性を作品に取り入れながら、あるいは、松戸の方々と関わりながら作品を制作し、展示するというプロジェクトである。
ワークショップユニット代本板(中島佑太×石幡愛)は、松戸市根本の空きガレージを使って、まちの方々から、本とその本にまつわるエピソードを集めて<図書館>を制作した。出来上がった作品を展示するのではなく、会期を通して徐々に作られ、日々変化していく場であり、本を集めることをきっかけに、松戸の方々とおしゃべりをする場でもある、まちの交流拠点としての<図書館>だ。
<図書館>に対する地元の方々の関わり方とその経過
<図書館>の特徴は、アートの鑑賞を目的に来場する方や、遠方から1回限り見に来られる方ばかりでなく、近所にお住まいの方や、中部小学校、北部小学校の子どもたちや、近くの学童保育に通う他の小学校の子どもたちや先生方が、繰り返し訪れてくださる場になったという点にある。
11月上旬の制作期間には、空きガレージのシャッターが突然開いたことに関心を示し、「お店になるんですか?」など質問してくださる方がいらっしゃった。「何がはじまるのだろう?」という表情で立ち止まって見ていく学校帰りの子どもたちもいた。そうした人々とのやりとりを通して、空きガレージが<図書館>になるという物語が、少しずつ地元の人たちの間に広がっていった。
会期がはじまると、まず、近所の子どもたちの図書館になった。本を読んだり借りたりしていく子もいれば、「子ども司書さん」として、本の分類、本棚の整頓やラベル作りをしてくれたり、<図書館>で起きる出来事を記録していく日報の記事を書いてくれたりする子もいた。子どもたちと一緒に学童の先生が来てくださったり、子どもに連れられて親御さんが来てくださったこともあった。
近隣の大人の方々の中にも、いわゆる図書館(本を読み、借りる場)として利用してくださる方が少しずつ出てきた。「まちの方の本と、本にまつわるエピソードを集めています」とお話しすると、もう一度、本を持って訪れてくださり、ブックカードをはさむワークショップに参加してくださる方や、「お昼ごはんに食べて」と差し入れをしてくださる方まで出てきた。
根本の町会長さん、隣の町会の子ども会、近隣の小中学校のご協力で、チラシを配布していただけたこともあり、<図書館>は、地元の方々が繰り返し訪れる場として徐々に機能しはじめた。そして、日が経つにつれ、<図書館>は、まちの日常に根づきはじめたように見えた。
特にそれを感じさせてくれたのは、子どもたちの<図書館>に対する関わり方の変化だった。彼らは、毎日、習い事の行き帰りに<図書館>に立ち寄っていく。そのうち、本を読むだけでなく、友達と待ち合わせたり、私たちとおしゃべりをしたりお話を作ったり、おやつを食べたり、友達と一緒に遊んで過ごしたりしはじめたのだ。「いってきます」と言って子どもたちは習い事に出かけていき、その場にいる常連の大人たちは「いってらっしゃい」「また来てね」と送り出す。こうして<図書館>は、地元の子どもたちが気軽に立ち寄り、その場に居合わせた人たちと時間をともにする場所になった。
まちに対するアーティストの関わり方とその経過
私たちにとって、松戸という地域は特にゆかりや理由があって選んだ土地ではない。<図書館>作るというワークショップを通して、まちの人たちとコミュニケーションを深めるというプロジェクトをやろうというアイディアだけを持って、場所を探していたところ、松戸アートラインプロジェクトを知り、応募したという流れだ。プロジェクトがはじまるまでは、これから毎日松戸駅で電車を降りることになろうとは思ってもいなかったのだ。
たくさんある空き物件の中で、根本にある空きガレージ(アクシス根本)をスタジオとして選んだのは、「道路に面した1階のスペースで入り口を全開にできるところ」という条件に当てはまったからだった。それから、目に見えない木の根っこを想像するように、本の根っこ(本にまつわる物語)を想像する場所にしたいと考えていた私たちにとって、「根本」という地名には何か気になるものがあった。こうして、松戸市根本は、どこでもよい場所から<図書館>を置く必然性のある場所になった。
制作をはじめたばかりの頃は、近所に知り合いもいない「よそ者」だった。とりあえず、ガレージのシャッターを開けて、集まった本を積んでみたり並べてみたり、何はじまりそうな雰囲気を出すことで、とにかく目を向けてもらう。それが最初の自己呈示であり、まちとの関わり方だった。毎日ガレージを開けていると、やがて知り合いができはじめる。まず、スタジオの前を通学路にしている中学生たちと「こんにちは」と挨拶するようになった。それから、スタジオの上の階に住んでいらっしゃる方、隣の理容室の方、向かいのマンションに住んでいる小学生たち。名前を知らない「まちの人」が「誰々さん」になっていった。
松戸でアートプロジェクトが行われるということについて、近隣の方がどう感じているのかを聞くことができたのも、近隣の方々のことをより深く知るきっかけとなった。スタジオの正面にある壁画(グラフィティアート)が描かれることになった経緯や、松戸市と町会の交渉に関するエピソードや、その壁画を根本町会の方がとても誇りに思っていることなどについてお話を聞くことで、私たちは、町会の歴史を本当にわずかなりとも共有することができた。
会期が終わり、<図書館>は、松戸の方々からいただいた本と本にまつわるエピソードを携えて、次の土地へ移動する。この1ヶ月間で私たちが十分に関わることができた方々は、町会あるいは松戸市の住民の数に比べればほんのわずかだ。とはいえ、<図書館>に足を踏み入れこそしないものの、立ち止まって眺めて行く方や、「図書館だって」と話しながら通り過ぎて行く方はたくさんいらっしゃった。そうした方々とコミュニケーションを深めていくためには、もう少し長い時間がかかるのだろう。それでも、繰り返し訪れてくださったり、私たちの活動を気にかけてくださり応援してくださる方々との日々の会話の積み重ねが、どこでもよい場所だった松戸を、そして、誰でもよい人だった地元の人々を、また来たい「この場所」、そして、また会って一緒に何かしたい「この人」へと変えてくれた。そのことが、私にとってのいちばん嬉しい成果だ。
写真協力:天谷窓大(ブクブク交換)
文章:石幡愛
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by daihonban
| 2010-12-23 06:39